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バーチャルウォーターをご存知ですか?

みなさんは、「バーチャルウォーター」という言葉をご存知でしょうか?

日本で何かを表現するときによく使われている表現で「水は高いところから低いところへ流れる」というものがあります。ただし、それは実際に目に見える水に限った話しです。水の恩恵が様々な商品を生み出し、海を越えて取り引きされていることを考えると、世界には私たちが考えているものとは別にもう1つの水フローが見えてきます。

例えば、小麦を外国から輸入する場合、輸出する国では、容積で約2,000倍の水を使用してその小麦を生産しているといわれています。これは言い換えると、輸入農産物には輸入元の水資源が付加されています。このように、農畜産物や工業製品の輸入にともなって、海外の水を間接的に消費しているとも考えられます。これを「バーチャルウォーター(間接水)」といいます。

今や世の中には、「◯△水」という水はたくさんありますが、このバーチャルウォーターは聞けば誰もが「なるほど」と感じるのではないでしょうか。

このバーチャルウォーターという言葉には個人的にはずいぶんとセンスを感じますが、バーチャルウォーターの名付け親は一体誰なのかと調べてみると、University of Londonのある教授でした。砂漠気候で水資源に乏しい中東の国々が多くの水を必要とする高い生活レベルを維持できるのは何故でしょうか。そう考えたロンドン大学の教授が辿り着いたのがこの考え方でした。

その後、日本では東京大学の教授がバーチャルウォーターを考慮した世界水資源アセスメントの研究を発表し、水危機の現状を訴えました。

天然の水資源に恵まれた我が国、日本ですが、バーチャルウォーターの消費量は世界水準に比べて多く、国内の取水量のおよそ2/3にのぼります。これは国土の狭さゆえ、国内での生産物が限られていることも影響していると考えられています。つまり、バーチャルウォーターは私たちが世界の「水」「土地」「人」にどれほど頼っているかを示すバロメーターとなっています。同様に食べ物が生産地から消費地まで輸送された距離を表す「フードマイレージ」という概念も提唱されています。

いつの時代か、豊かな国、日本に生まれた私たちは「水と安全はタダ」などといわれていた時代があったように思いますが、無駄に浪費することを「湯水のごとく使う」と表現したりもします。バーチャルウォーターという見えない水は、グローバルに見た水資源の節約という議論の呼び水になっていただきたいものです。

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ヒューストンより司令船オデュッセイへ。機体から月着陸船を分離せよ

「ヒューストンより司令船オデュッセイへ。機体から月着陸船を分離せよ」

「了解。電力量は問題なし。ーーーさよならアクエリアス。ありがとう」

ご記憶の方も多いでしょう。映画「アポロ13」のクライマックスです。私も個人的にとてもすきなシーンです。1970年、アポロ13号は月面踏査用に3個の燃料電池を載せて宇宙空間へ旅立ちました。しかし爆発事故で酸素ボンベが壊れ、地球を出たときにはすでに2個が使えなくなっていました。

この時点でアポロ13号のミッションは「月面探査」から「地球への帰還」に変わります。それは月着陸船用に搭載した「アクエリアス」を救命ボート代わりに使い、司令船オデュッセイを地球に連れ戻すという難事業でした。オデュッセイの酸素や燃料などは大気圏突入の直前まで使えません。燃料切れの危険と背中合わせの状況に置かれた宇宙飛行士たちはNASAと冷静に更新しつつ、残った1個の燃料電池をフル活用して大気圏に突入します。いまも語り継がれる「アポロ13の奇跡」はこうして生まれました。

宇宙開発の歴史の中で燃料電池は常に隠れた主役であり続けてきました。燃料電池の基本的な仕組みは、水の電気分解を逆にしたものです。細かな穴の空いた2本の電極にそれぞれ酸素水素を送ると、電気を発生しながら水が出てきます。燃料の水素を送ることによって発電することから、燃料電池の名がつきました。

火力発電の場合、カルノー理論によって熱変換効率が低下しますが、燃料電池の場合、燃料がそのまま電気エネルギーに変換されるので、70%以上の高エネルギー変換ができるのです。

ものを燃やすことなく、化学反応から直接エネルギーを取り出すその仕組みは宇宙空間で何より頼もしい存在なのです。そして近年、燃料電池は排気が少ない次世代型クリーンエネルギーとしても、大きく注目されています。宇宙船の貴重な命綱として活躍してきた燃料電池が、今、新たなライフラインになろうとしているのです。